「いつ行っても心安らぐリゾート地」、軽井沢はそうあってほしい。
緑ゆたかに広がる風景にふさわしい街並みとはどんなものだろうか。
目立つホテル、マンションの建設
S(佐藤)今日は軽井沢の景観について考えたいと思います。
M (森) 工事が多いので景観が変わりそう・・・
H (広川) マンションやホテルの建設が予想以上に進んでいますね。
S 目立つ所では、軽井沢駅前の商業施設、新軽井沢にマンションが数カ所、プリンス通りや軽井沢バイパスに数ヵ所。塩沢のマンション建設もかなり進んでいます。それと問題の旧軽井沢のつるや旅館前、東急不動産のホテルも工事が進みダンプカーが旧軽銀座を走っています。
M 軽井沢バイパスにはマンション団地ができるとか。
H 塀で囲っているのでどこまで進んでいるのか見えませんが、3棟できると聞いています。追分にもホテルやマンションの計画があるので相当な数になりますね。建設にすべて反対ということではないけれど、これだけ建設計画があると街の姿が変わっていくことになりますから、どのようになるか心配。
M 別荘の知人は「来るたびに変わっている」と驚いています。良い形に変わるならいいけれど、「良くなった」というより「ひどくなった」「軽井沢らしさが無くなっていく」と言う声の方が圧倒的に多いですからね。
H 都会と同じようなビルが建つことに賛成する人はあまりいないでしょうね。「時の流れで変化するのは仕方ない、それが進歩だ」という考え方もありますが、軽井沢らしさを損なう景観になっても「進歩した」と言えるのかという疑問があります。
M 軽井沢が都会と同じようになったら軽井沢の魅力は半減するでしょうね。
S マンションやホテルは部屋数を多くとるため四角い箱型になりがちですが、景観のデザインをもっと考えるべきですね。企業は利益を優先しようと考えますから、行政が環境や景観を考えるように指導することが必要です。
H そうですね。軽井沢町と長野県がもう20年以上前に発表している軽井沢の「マンションメソッド宣言」や「まちなみメソッド宣言」の趣旨を業者にも理解させてほしいですね。
景観地区の策定と具体的な規制が求められる
M 前町政では「50年後、100年後を考える」と謳い、グランドデザインと称して未来図を作りましたが、それで良い方向へ変わったのでしょうか。
H 疑問ですね。それどころか緑地が減り自然環境が崩れました。これだけ開発が計画され、今後も更に増えると予想されますから、ここで50年後ではなく3年後の設計図を考えてはどうでしょう。長期振興計画があるけど具体性に欠けています。過去の長期振興計画を見ても、絵に描いた餅でしかなかった。
S 広川さんがアメリカの高級リゾートを調査した時、かなり具体的にまちづくりの計画がされていたと話していましたね。
H カーメルという高級リゾートですが、市役所にデザイン審議会があって、エリアによってホテルは何軒、レストランは何軒と決められていました。商店街はショッピングを楽しめるように店をバランスよく配置していました。
M 随分、具体的ですね。
H 道路からエントランスまでのアプローチやショウウインドゥの配置などもわかりやすくイラストで指導しています。
M そこまでの指導は日本では難しいでしょうね。
S いや、日本でも景観行政団体になっている地方自治体は細かく規定しています。京都市など積極的に景観を整えようとする行政は景観地区を策定して、まちづくりのための規制を具体的なイラストや写真を用いてわかりやすい指導書を作っています。
50年前の「自然保護対策要綱」で軽井沢を守れるか
S 長野県でも既に29の市町村が景観行政団体になっていると聞いて、私も驚きました。長野県では小布施町が2006年に行政団体になり、まちづくりを進め注目されてきました。市や町だけでなく白馬村や小谷村など村も入っています。この一覧表を見ると、皆さんびっくりします。なぜ、軽井沢町が入っていないのかって。
H 軽井沢別荘団体連合会の会合でゲストとして招いた元東京高裁判事・弁護士の西口先生は、文化度の高い人が集まる軽井沢町が景観行政団体でないことに驚いて、「自然景観が壊れたら軽井沢の資産価値は下がりますよ」と心配されていました。
S 過去には議会でも取り上げられのですが、「軽井沢自然保護対策要綱があるから」ということで行政側から拒否されたそうです。長野県では29の市町村ですが、2019年時点で、全国で737の地方公共団体が景観行政団体になっています。御代田町も景観行政団体になると決めているそうです。
M わぁ、軽井沢、遅れている・・・
H 急がないといけませんね。 以前なら、まさかキッチンを付けないマンションやコンドミニアムを建てるとは思いませんでしたが、今は儲けるためにそれくらいやってしまうというから驚きます。駐車場にしても停めた車の後ろにさらに駐車して台数を満たすという強引なやり方を平気で通す業者が出てくる時代ですから、もう軽井沢自然保護対策要綱では景観を守りきれません。(軽井沢ではマンションは1棟に19戸以内と決められているが、炊事設備がなければ例外となり容積率の範囲で戸数を増やせる。また宿泊施設は敷地内に部屋数の半数以上の車を駐車するスペースが必要とされている)
M 利益優先で軽井沢の景観のことなんか何も考えていませんね。
H 長年軽井沢と関わって来た東急がそこまでやるのですから、50年前の自然保護対策要綱では抑えきれません。1日も早く景観行政団体になることが必要です。
S 今回の東急不動産のホテル建設の件でわかったことは、「軽井沢の景観行政団体は長野県」であり「軽井沢景観育成ガイドライン」を策定していますが、景観に関して実質的な効力はないということがはっきりしました。自然保護対策要綱も今の数値基準を満たしさえすれば景観上どのような建物でも建てられるということになります。(詳細は前回の「東急不動産のホテル建設計画、県の審査結果は?」を参照)
M だから今話題になっている、ものすごく違和感のある「アラビア風の御殿のような家」もすんなりと建ってしまったのね。
H 今のままでは西口先生のおっしゃるように「軽井沢の資産価値が下がる」ということになりますよ。
S 現町長は選挙のときに、「軽井沢の真価を高め、上質な保養都市として未来につなぐ」とスローガンを挙げています。ぜひ軽井沢の価値が下がらないように、早く軽井沢の景観対策をしてほしいですね。
H 軽井沢らしさをこれ以上失わないためにも、1日も早く、町議会議員も含めて軽井沢町自身が景観行政団体になることを決めてほしいと思います。
【上の写真は軽井沢の姉妹都市、カナダ・ウィスラー市のホテル】
建物の外観や色彩は自然と違和感のないようにデザインされ、高い建物は屋根や窓のレイアウトで違和感のないように工夫されている。大型のホテルでも外観は幾つかの棟を合わせ重ねたように設計しているので、大きな建物であることを感じさせない。カフェテラスは石や木を使って高原リゾートの雰囲気を出している。