2024年5月に自然保護審議会の委員を中心に、20名による「自然保護対策要綱改正検討部会」が結成され、7月5日に小池副町長が参加して軽井沢自然保護対策要綱(以下、要綱)の改正を進める委員会がスタートしました。
「軽井沢自然保護対策要綱」の改正は、なぜ必要なのか
S(佐藤) 軽井沢自然保護対策要綱(以下、要綱)は昭和47年に制定され、50年の間、軽井沢町の基本的な指針としてきたわけですが、時代の変化と共に内容がそぐわなくなってきたことや、その実効性についても住民から意見が出てきているため、見直しが必要となったわけです。
H(広川) ようやく…という感じですね。もう何年も前から「守られていない」「絵に描いた餅」という声が出ていました。50年の間に町役場の解釈も変化しています。
S 昭和47年に制定されたのは要綱だけでしたが、「軽井沢町の自然保護のための土地利用行為の手続に関する条例」という長ったらしい名前の規定が加わっています。これは後で加えられたもので「取り扱い要領」は要綱をさらに詳細に規定しています。今回の見直しでは一番基本となる「軽井沢町の自然保護対策要綱」だけでなく、それに付随した5つの決まりが改正の対象となります(参照※1)。
※1 ①軽井沢町の自然保護対策要綱、②軽井沢町の自然保護対策取扱要領、③軽井沢町の自然保護のための土地利用行為の手続に関する条例、④軽井沢町の自然保護のための土地利用行為の手続に関する条例施行規則、⑤軽井沢町の善良なる風俗を維持するための要綱
作者不明の「軽井沢自然保護対策要綱」
M(森)そもそも誰がどういう目的で作ったものなのかわかりません。何年か前に役場の人に尋ねたことがありますが、誰も答えられませんでした。
H 多くの町民は町役場が作ったと思っています。佐藤正人町長の時代に発布されたから、佐藤正人町長が作ったと思っている人もいます。しかし、要綱の内容をよく読んでみてください。町民が考えたものでないことがわかります。特に「善良なる風俗を維持するための要綱」によく現れています。
M 確かに、深夜営業や風俗営業の禁止はともかく、「午後9時から翌日午前6時までは静穏をそこなう行為をしない」や「携帯ラジオ等による高音を発し静穏をそこなわない」「拡声放送は 音量 70ホーン以内」等、地元町民がそこまで静けさにこだわるかな?という疑問はあります。町民でないとすると、誰が作ったのか?それをなぜ、町役場が公布したのでしょうか。
S 以前、町議会議員に尋ねたことがあります。その人は「考えたのは、内容からして町民というよりは別荘の人だろう」と。
H 生前の星野嘉助さん(4代目)に直接聞いたことがあります。星野さんは長年軽井沢町の自然保護審議会会長を務めてきた人で、環境や自然保護にとても熱心でした。
M 実際、誰が考えたかわかったのですか?
H 星野さんの話でわかりました。離山の開発の話が出たときに、自然が壊されるのではないかと危機感を感じた別荘の有力者たちが「軽井沢の自然を守らなければ」と考えて作ったそうです。星野さんの父、3代目の星野嘉助さんは野鳥の森や観光協会を作った町の実力者で、交流のあった別荘の人たちと一緒に、自然保護や静穏な別荘生活の対策を考えました。その頃、町長選挙に立候補していた佐藤正人さんに「あなたを応援するから、当選したらこれを発布しなさい」と約束させました。そして当選した後、町の決まりとして要綱を発布した、ということを私は星野さんから直接聞きました。
M なるほど、そんないきさつがあったとは。それは要綱の内容からしても理解できる話ですね。
S その4代目の星野嘉助さんは、肩にフクロウを乗せて「私は森の番人だ」と自然保護を訴えていた人ですよ。
M あ、何となく、記憶にありますね。
H 高原誌「軽井沢ヴィネット」にも「軽井沢の野鳥」と題したエッセイを連載していたことがありますが、いつも軽井沢の自然環境の変化を嘆いていましたね。
「塀を造らず植栽にする」…その意味は?
M 私もこの要綱をじっくり読んでみましたが、本当に細かいところまで軽井沢の動物、植物を慈しむ気持ちが出ていますね。
H その気持ちが礎になっているのが、この軽井沢自然保護対策要綱なんです。軽井沢の自然をいつまでも大切にしたいという気持ちがこの中に込められています。
M でも今は要綱と言ったら、家を建てる時に不動産や建築関係者が要綱をわかっていればいいという程度の認識しかないですね。
S そうかもしれません。だから、「塀を作らず植栽にする」と言われても理解できないわけです。「家の中が見えてしまうから塀で囲わないと」となってしまう。
H 要綱を作った人たちの自然保護という精神が伝わっていませんね。別荘団体連合会の会長も言っていましたが、塀を作らず植栽にするのは「野生動物が通れるようにするため」だと。野生動物への愛情、軽井沢の自然全てを大切にしたいという強い気持ちがそういうところにも現れているんですが、役場の職員もそこまで理解していないから説明できない。「みんなが守っているんだから守ってください」なんて言っていました。
S イギリスではフットパスと言って、家と家との間に仕切りを付けず、「ありのままの風景を楽しみながら歩く小径(こみち)」があります。
H 「ありのままの風景」…それですね。軽井沢も緑の広がりを大切にしたいからそれを遮る塀は止めましょうと、いうことだと思います。
M なるほど。そういえば、昔、ダイアナ妃がフットパスを散策している記事があったわ。
H よく覚えていますね。私はテレビでその映像を見て、なんときれいな風景。軽井沢もそうあってほしいと思いました。
S 今もこの要綱が軽井沢の要であって、これからも町の指針となっていくはずなので、まずはこの精神を役場職員や自然保護審議委員にしっかりと理解させてほしいですね。
H そうですね。要綱の見直し検討部会ができて、動き始めていますから、要綱の原点をまず関係者に理解してもらう事が必要だと思います。
S 先日の検討委員会を見ていると、2時間はあっという間でした。改正には時間がかかるな、と思いました。
H 私も、あの調子では改正に4年くらいはかかるのではないかと思いました。
M え~、ホントですか?その間にどんどん開発が進んでしまいますよ。
S 今回の検討部会はメンバーの紹介と部会長の選任や改正に関する基本事項の説明などが中心でした。意見交換では旧軽井沢の委員の方2名から旧軽井沢の開発と問題点、歴史的な場所が受けるダメージや変化についての意見が挙げられたのが印象に残っています。
H 次回は、活発な意見が出て問題点が浮き彫りになり、対策をスピードアップで考えてほしいと思います。