軽井沢町からの意見書や署名を県へ提出、審査期間は2カ月延長に
M(森) つるや旅館前の問題のホテル計画、工事が始まっているけどどうなっているの?軽井沢新聞11月号では、軽井沢町が意見書を付けて県へ提出、県は審査機関を2ヵ月延長して実地調査等を行うと回答したということが書いてあったけど。
S(佐藤) インターネットでも反対の署名を集めて、それを県のまちづくり課へ提出したということでしたね。NHKテレビなどマスコミでも報じられていました。
H(広川) 建設反対の署名ではなく、近隣住民や旧軽井沢の別荘民たちからの要望書に賛同する署名です。どんな要望かというと、一言で言えば「周囲の景観に合わせて違和感のない建物にしてください」ということ。
M このホテルのパースを見ると、半地下で4階建てに見える巨大なマンションみたいな建物。狭い銀座通りに面して圧迫感がありますね。向かいが「つるや旅館」、隣が甘味店の「ちもと」。周囲の街並みとは違和感がありますね。
H そう思った人はたくさんいたから、署名は2月提出分が2156人、12月が2012人、延べ4178人という数にのぼりました。12月分は県へ提出して景観審議会での検討をお願いしました。軽井沢町が県へ意見書を提出したというのは異例のことですし、住民から県の審議会へお願いするというのも初めてのことです。
M なぜ、県なのですか?
H それは長野県が軽井沢町の「景観行政団体」だから。県は「軽井沢町景観育成基準ガイドライン」を決めています。「周辺の景観から著しく突出した印象を与えないような規模、高さにすること」とか「意匠は周囲の建築物との調和に努めること」など景観についての注意事項を記しています。(詳しくは注1を参照)
S このガイドラインが守られたら、軽井沢の景観はとても良くなるだろうと思える内容ですね。
H 軽井沢町は町長が変わって、この問題について何とか良い形にできないかと検討していましたが、軽井沢自然保護対策要綱ではどうしても住民が要望する「周囲にあわせた景観」にすることができなくて、タイムリミットとなったために県へ要綱に関する協議終了の書類を送りました。その際、景観行政団体である県へ意見書を付けたということです。
S どんな意見書だったんだろう。
H 内容については公表されていないので詳しくは分かりませんが、「景観審議会で諮ってください」ということのようです。それで、県が「実地調査をして検討する」となったのです。このために、工事は2ヵ月延期になりました。
M その間も工事していたようですが。
H 建築準備のための工事は許可されていたようですが、本工事は県から許可が出るまではできませんでした。
審議会の結果は?長野県の曖昧な判断
M 景観審議会での結果はどうだったのですか。
H 結局、12月18日付で長野県佐久建設事務所から東急不動産へ「景観上問題はない」という通知が出され、工事の着手の許可が下りました。
M え~!「景観上問題はない」っておかしくないですか。
S 私は先日、「署名をいただいた皆様へ」という文書を「旧軽井沢の歴史と景観を守る会」からもらいました。
H 署名をいただいた方に説明する必要があるので、文書を作りコピーして渡しています。全ての方に渡すのは不可能ですから、ここで、わかりやすく説明しましょう。
【経過】
12月14日に県から連絡を受けて地域整備課長が合同庁舎へ行った。翌日15日に近隣住民と「旧軽井沢の歴史と景観を守る会」の代表ら3名が合同庁舎佐久建設事務所に行き説明を受けた
【県側の説明要旨】( )内は広川の説明
- 軽井沢町側からは「要綱」に関しては要件を満たしており、「特に問題はない」との報告を受けている。(しかし、軽井沢町は、要綱には入りきらない問題があるからと判断し異例の意見書をつけている)
- 長野県の景観基準ガイドラインは「緩やかな定性基準」を示したものであり、明らかに違反するのではない。(定性基準とは具体的な数値で示されないという意味。曖昧で緩やかな判断でいいということのようです)
- 事業者にヒアリングを行い ①圧迫感軽減のためセットバックしている ②軽井沢の建築様式を行った ③植栽を行った と説明を受け、景観基準に違反するものではないと判断した(しかし①建物全体がセットバックしているわけではない ②部分的に取り入れても都会のマンションのような全体の外観は変わらない。③裏庭の樹木は建築のため更地状態にした。それに比べれば植栽はわずかな面積)
【長野県 都市・まちづくり課とのQ&A】
Qは軽井沢住民、Aは長野県担当者
Q 事業者の説明をそのまま受け入れているにすぎない。具体的な深堀りの審査がされたとは言い難く、抽象的なレベルでの議論で判断しているのではないか。建設サイドの議論にとどまり、景観基準ガイドラインが本来議論している、周辺地区全体の景観との調和、整合性、連続性、一体感を議論対象としていないのではないか。
A (この点については具体的な返答はない)
Q 2022年から、近隣住民や「旧軽井沢の歴史と景観を守る会」が景観上の問題点を様々な形で繰り返し説明しているにもかかわらず、軽井沢町に関する景観行政団体である長野県側の関与が希薄なのではないか。
A 軽井沢町側での要綱、景観に関する議論が県側に伝えられることが重要。しかし、現在の景観法のもとでは、事前協議のプロセスは前提されていない。
Q このまま「問題なし」と公表する場合は景観行政団体である長野県側及び軽井沢町側に対し、どのような審査がされたのか疑問が投げかけられる。近隣住民や多くの反対の署名に対して丁寧に対応していくべきであるといった「付帯コメント」等を書面で出すべきではないか。
A 確約できないが検討する。
(下の写真説明)
近藤長屋からワタベウエディングに変わった田中康夫知事のとき、長野県のマスターアーキテクトが指導して、このような木造で長屋風な建物にした。裏庭の日本庭園もそのまま残した。県の指導が可能であることを証明している。
軽井沢の景観を守ることは不可能か
H 東急不動産に対しては、工事着工を認める通知書が出しましたが、県はその通知書の表書きに「事業の実施にあたっては、周辺住民との十分な意見交換を行うように配慮してください」と書いています。
S 結局、軽井沢町の景観に関しては軽井沢自然保護対策要綱でも、県の軽井沢のガイドラインでもどうにもならないことがはっきりしたね。つまり、軽井沢の景観行政は最低ラインということだね。
M 今まで、「軽井沢自然保護対策要綱は日本一厳しい決まり」「これがあるから軽井沢は日本有数の別荘地として今日がある」「自然が守られてきたのはこのお陰」なんて歴代の町長は言っていたけど、そうとは思えませんね。このような結果では軽井沢の景観がこれからどうなるか心配です。
S 要綱は50年前に作られたものなので、当時の人たちが想像もしないような問題が現在は出てきていますから、軽井沢の自然環境や景観を守れるとは言えませんね。「日本で最も厳しい」なんて何十年も前のことで、今ではもっと進んでいる地方自治体はたくさんあります。京都や芦屋はまちづくりを上手に進めています。
H 今回のことで分かったことは、要綱も県のガイドラインも「絵にかいた餅」。50年前のものなので今ではかなり遅れています。「軽井沢町の景観行政団体は長野県」となっているため、県に依存していますから判断は県の言いなりということになってしまう。実質的に機能していないことがはっきりしました。
S 今回の問題を教訓として、1日も早く、軽井沢町自身が景観行政団体になって、歴史保護地区や風致地区の見直し、文化財保護の観点も考慮して軽井沢の価値を下げない工夫をするべきだと思いますね。
M そうしないと、またこのように要綱の隙間をくぐり抜けて儲けようとする業者が出てきますね。
景観行政について、残された問題点
M 県は他人ごとのように簡単に許可してしまったけど、地元ではこれから工事の凄まじさやハイシーズンの人混みや渋滞などの混乱状態が予想されますね。駐車場の問題も解決されていませんよね。(注2を参照)
S この東急不動産のようなやり方で、ホテルという名前を使いつつ実際はコンドミニアムだったというような建物が増えないか心配ですね。
H これは本当にひどいと思います。私は設計図を見て、各部屋のベランダにエアコンの室外機があることや、設計したのがマンション専門の「企画社」だったので変だなと思い、東急の担当者に「コンドミニアムじゃないんですか?」と質問をしてきましたが、その度に「ホテルです」という返事しか返ってきませんでした。ようやく、今年の9月の最終説明会のときにホテルコンドミニアムだということを白状しました。軽井沢ではマンションやコンドミニアムは一つの建物に19戸しか建てられないのに、ホテルとすれば65戸も出来てしまいます。
S ホテルコンドミニアムについては東急不動産のホームページに詳しく書いてありますが、マンションのように1戸(ホテルコンドミニアムでは1部屋というが77㎡以上の広さがある)を販売し、所有者は使わないときにホテルとして貸して利益を得るという投資型のマンションですから、一般的なホテルとは別物です。
M これがなぜ、許可になったのか、その理由が要綱には「キッチンを作らなければ20戸以内ではなくてもいい」という1行があったからというので、え~と思いました。なぜ、そんな1行を付けたのか疑問です。
H 当初はなかった1行だそうです。それがいつどういう理由でつけられたのか不明なのですが、この1行に目を付けた東急不動産はなんと悪知恵が働くのかと呆れました。ホテルなら1泊1人3~4万円ですが、このようなマンション方式なら何千万円で売れますからね。しかも売ったあとは東急不動産はほぼ関知しないというやり方です。
M これでは自分たちの利益しか考えない企業と思われても仕方がないでしょうね。
H 東急は昔から軽井沢との関りが深い会社ですから、もっと軽井沢のこと、住民のことを考えるべきです。
S 「事業者に対し、軽井沢町の景観にふさわしい企業責任と高い倫理観を求めます。」とマンション軽井沢メソッド宣言にも書かれているように精神を守って事業してほしいものです。しかし、今は軽井沢に色々な開発業者が入り込んでいますから、1日も早く対策を考えないといけませんね。特に町議会議員に、このような状況であることを知ってもらい、景観行政の不備を自覚してもらいたいと思います。
注1:県の「軽井沢町景観育成基準ガイドライン」より抜粋
イ 規模
- 浅間山や佐久平への眺望をできるだけ阻害しないようにするとともに、周辺の基調となる景観から著しく突出した印象を与えないような規模、建築物等と敷地との釣り合い、高さとすること。
- 高さは周囲のまち並みとしての連続性に配慮するとともに、圧迫感を生じないよう努めること。
ウ 形態・意匠
- 周囲の建築物等の形態との調和に努めること。また、第1種住居地域における建築物等の屋根の形状は、原則として勾配10分の2以上、軒の出0.5m以上の勾配屋根とするなど、周囲の建築物等の形態との調和に努めること。
(エ)周辺の基調となる建築物に比べて、規模が大きい場合には、屋根、壁面、開口部等の意匠の工夫により、 圧迫感や威圧感を軽減し周囲との調和をはかること。
カ 敷地の緑化
- 敷地境界には樹木等を活用し、門、塀等による場合は、周辺景観と調和するよう配慮すること。
- 建築物等の周辺は緑化することにより、圧迫感、威圧感の軽減に努めること。
- 駐車場、自転車置場等を設ける場合は、道路から直接見えにくいように周囲の緑化に努めること。
注2:駐車場の問題
軽井沢自然保護対策要綱では、宿泊施設は部屋数の半数以上の車を停める駐車場を敷地内に置くこととされている。しかし、このホテルは65室に対して敷地内には17台しか停めるスペースが確保されていない。東急不動産はこの17台のスペースにぎゅうぎゅう詰めにして鍵を預かり33台を停めるとしている。これは明らかに要綱違反であるが、「新幹線で来る人が多いから大丈夫」などと言い逃れている。